一般に運動をすればするほど健康になると信じられています。
事実そうなのですが、運動量(実施時間・頻度)が過剰になると、逆に運動傷害の発生率が高くなったり、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの虚血(きょけつ)性心疾患による死亡率がかえって高くなってしまうのです。
みなさんの周りでトレーニングを人よりも多く実施しているのにも関わらずなぜか風邪を引きやすく、また、治りにくいという人はいないでしょうか? これは運動量が過剰すぎたことが原因となっている場合が多いようです。
体力の分類
体力は身体的要素と精神的要素の2つに大別されます。更に身体的要素は『行動体力』と『防衛体力』の2つにわけられます。行動体力とは、筋力、筋持久力、瞬発力、調整力、柔軟性などの行動を起こす機能の総称のことです。
一方、防衛体力とは一般に抵抗力とも呼ばれ、体内外からのストレスに対して耐える能力を指し、『温度調整』『精神的ストレスに対する抵抗力』『免疫』などのことです。今回は、免疫についてのみ述べるにとどめたいと思います。
運動と免疫の微妙な関係
抗原となる物質が体内に侵入すると人体はこれに反応してリンパ球(白血球の一種)などで抗体をつくります。
再び、同じ抗原が侵入しても、この抗体が抗原と結合して無害なものへと変えてしまいます。
こういった生体の防衛メカニズムを免疫といいます。この免疫は大きく非特異的免疫(一次的免疫)と特異的免疫(二次的免疫)の2種類に分類できます。
非特異的免疫とは不特定の細菌やウイルスに対する抵抗力のことであり、感染したら即座に対応する能力のことです。世の中に風邪をひきやすい人とひきにくい人がいますが、この差は非特異的免疫の個人差によるものです。
一方、特異的免疫はある特定の細菌やウイルスに対する抵抗する能力のことで、感染してから抵抗力を発揮するというものです。
例をあげると、麻疹(はしか)は一度かかると二度とかからなくなります。
これは特異的免疫の能力によるものなのです。
これらの免疫の能力は運動量などによっても変化をきたすことがあります。
運動を行うと一過性に免疫の能力は高まります。免疫が高まった状態は運動終了後、2時間くらいまでは続きますが、しばらくすると免疫能力は低下していきます。
その後、20~24時間ほどで元の状態にまで回復します。
このように24時間以内に免疫が回復するような運動を定期的に実施していればしだいに免疫能力は高い能力を有するようになります。(運動をしていない人に比べての話ですが...)
しかし、運動量が極端に多かったりすると、免疫能力そのものが低下したり、免疫能力が回復するまでの時間がかかるようになってしまいます。その結果、細菌感染やウイルスなどに侵される確率が高くなってしまうのです。
医学博士のニーマンは1990年に上気道感染症(じょうきどうかんせんしょう)と運動量についての論文を発表していますが、そこには『マラソンランナーのように運動量が極端に多い人ほど上気道感染症を起こす確率が高かった』と記しています。
外出先から帰って、手を洗い、うがいをまめにしているにも関わらず、すぐ風邪をひいてしまう、治りが遅いという人は『運動量が多すぎるのでは?』と疑う必要があります。
過ぎたるは及ばざるがごとし
それでは免疫を高める量、運動強度、頻度はどれくらいが適当なのかというと、残念ながら免疫に関する研究自体がまだまだ発展段階にあるために具体的な数値で表すことはできません。
ただ、1つ言えることは何事もほどほどに『過ぎたるは及ばざるがごとし』だということです。